拡大する“白タク”ビジネス──インバウンド需要の裏で揺らぐ交通法制

(2025年5月23日

訪日外国人の急増に伴い、都市部や観光地で“白タク”の影が色濃くなっている。特に、外国語対応が不十分な公共交通やタクシーに不満を抱えるインバウンド客をターゲットとした「新型白タク」は、従来の違法営業とは異なる形で巧妙に進化している。一方で、正規の緑ナンバー営業にも法的な問題が指摘されている。グレーな運行実態、市場の規模、既存の制度とのねじれ、そして今後の課題を洗い出す。

■ 白タクの進化:SNSと翻訳アプリで「バレない」営業

かつての白タクは、個人が無許可で有償運送を行う違法行為として厳しく取り締まられてきた。だが現在は形を変え、「外国語対応ドライバーによる“旅行ガイド型運送”」として、観光客からの信頼を集めている。

進化型白タクの特徴:

• WeChat、Instagram、LINEなどで外国人観光客と直接つながる

• 翻訳アプリや多言語対応チャットで予約・運賃交渉

• ナンバーは自家用(白ナンバー)だが、“空港送迎”や“観光案内”を装って報酬を受け取る

• 日本の旅客運送法に違反するが、証拠の可視化が難しい

こうしたサービスは中国、韓国、タイ、ベトナムなどのSNS経由で広まり、観光客側も“サービス”と認識しているため、摘発は困難を極める。

■ 正規の「緑ナンバー」でも違法営業の懸念

本来、旅客運送業を営むには国土交通省の許可を得て「緑ナンバー」登録しなければならない。だが近年、「名義貸し」や「自社用と偽った運行」が横行している。

実例:

• 地方の運送業者が許可を持たない外国人に車両と名義を貸し、都市部で営業

• 緑ナンバー車が正規の配車アプリを使わず、観光客を直接迎えに行く

• 法人名義で登録された車両を**“レンタカー”として観光客に貸し出す**

これは道路運送法違反(名義貸し)や、白タク同様の旅客無許可営業に該当し、違反が確認されれば営業停止や罰金対象となる。

■ 市場規模:潜在的には数千億円規模か

訪日外国人旅行者数はコロナ禍を経て回復し、2024年には3,300万人を突破。インバウンド消費額は5.3兆円にのぼる。

そのうち、移動手段に費やされる支出は1人当たり約2万円弱とされ、単純計算で約6,000億円規模の交通市場が存在。正規タクシーだけで賄いきれない需要を、白タクや準合法的な業者が吸収している実態がある。

■ 法制度の限界とグレーゾーンの蔓延

現行の道路運送法では「不特定多数から運賃を受け取る」ことが違法とされているが、以下のケースは規制が困難:

友人・知人の“お礼”名目の金銭授受

SNS経由での“個別対応”

運賃ではなく“通訳料”などの名目での徴収

これにより、現行法が実態に追いついておらず、取締り側(国交省・警察)も対応に苦慮している。

■ 今後の課題と規制の行方

1. 法整備の強化

• デジタル上の“配車アプリ”型違法営業に対応する新法整備が求められる。

• 名義貸しの罰則強化や、法人への直接的な責任追及も検討されている。

2. 正規の多言語対応タクシーの整備

• 外国語が話せるドライバーの育成と認証制度(「インバウンド運送士」など)創設が有効。

3. 観光庁と交通行政の連携強化

• 訪日客の利便性と法の秩序をどう両立させるか、観光政策との整合が不可欠。

■ 結語:違法と需要の狭間で揺れる交通インフラ

「白タク」は明らかな違法行為である。しかし、その背景には日本の公共交通がインバウンド需要に対応しきれていないという現実がある。制度の不備と実態のズレがもたらすグレーゾーンの拡大は、単なる取締りでは解決し得ない。

“安全・安心・公正”な移動手段を訪日外国人にも提供するために、透明性ある規制と実効性あるサービスの再設計が急がれている。

(了)

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